猫が開いた質屋で、ギター練習が差し押さえられた
ジト目少女と猫ギター
その日は朝から、白いギターを抱えていた。
やる気がある、というほどではない。
でも、やらない理由を探すのも面倒だったから、今日は言い訳程度に練習しよう
弦を軽く鳴らして、ピックを探す。
あれっ・・・?
ピックが・・・
ピックが・・・
いつもなら、机の上か、アンプの横か、なぜか靴下の中にあるはずだ
でも、今日はない。
🎸「……ピック知らない?」
聞いた瞬間、部屋のすみから猫たちが一斉にこちらを見た。
その顔で、だいたいわかった。
床には小さな木箱が置かれていた。
マジックで大きく、こう書いてある。
猫質屋
その前に、三毛猫がちょこんと座っている。
横には黒猫。
さらに奥には、キジトラが私のカポを前足で押さえていた。
🎸「なにこれ」
🐱「本日開店」
🎸「閉店して」
🐈「今日は質屋の日だから」
🎸「だからって私の部屋で開業しないで」
三毛猫は、妙に真剣な顔で小さな箱を開けた。
中には、私のピックが三枚。
替え弦。
カポ。
チューナー。
あと、なぜか片方だけの靴下。
🎸「全部、私のなんだけど」
🐈「査定中」
🎸「盗品を査定しないで」
🐈⬛「盗品じゃない。流れてきた」
🎸「私の机から?」
🐈⬛「生活の流れで」
いつのまにか私の部屋には、都合のいい川が流れているらしい。
私はギターを膝に置いたまま、じっと猫質屋を見た。
練習前から機材を差し押さえられるとは思わなかった。
しかも相手は、ふわふわした無許可業者である。
🎸「ピック返して」
🐱「返せます」
🎸「じゃあ返して」
🐱「ただし、対価が必要です」「等価交換の法則なのです」
🎸「現金はないよ」
🐈「なでなで一回」
安いのか高いのかわからない。
私は三毛猫の頭を一回なでた。
三毛猫は満足そうに目を細め、ピックを一枚だけ返してきた。
🎸「一枚だけ?」
🐈「初回サービス」
🎸「サービスの意味、だいぶ強気」
黒猫は、チューナーを前に置いて言った。
🐈⬛「これは高級品です」
🎸「いくら?」
🐈⬛「なでなで三回と、あご下」
🎸「相場が猫基準すぎる」
キジトラはカポを抱えたまま、のんびりあくびをしている。
🎸「カポも返して」
🐱「これは思い出込みで高い」
🎸「いつの思い出」
🐱「昨日、転がした」
🎸「思い出が浅い」
私はため息をついた。
もう放置してしまいたい
でも、何も返してもらえないのは困る。
仕方なく、私は順番に猫をなでた。
三毛猫、黒猫、キジトラ、ついでに何もしていない白黒猫まで、当然のように列に並んできた。
🎸「関係ない猫まで来てる」
🐾「手数料」
🎸「手数料が多い」
五分後、私の手元にはピック、カポ、チューナーが戻っていた。
かわりに、私のやる気は少し質流れした。
それでも、せっかく返ってきたのでギターを構える。
ピックを持つ指が、いつもより慎重になる。
猫質屋で取り戻した一枚だと思うと、妙にありがたみが出るのが悔しい。
じゃん、と鳴らす。
猫たちは段ボールの前に並んだまま、しっぽをじっくりゆっくり揺らした。
🐱「いい音」
🎸「査定すると?」
🐈「なでなで四回分」
🎸「音まで査定しないで」
でも、悪くなかった。
差し押さえられた練習は、少し遅れて始まった。
予定よりだいぶ猫くさいけど、まあ、音は出た。
私はピックを見つめて、小さくつぶやいた。
🎸「なくしかけたものほど、ちょっと丁寧に弾けるの、なんかくやしい」
🐈⬛「明日も預かる?」
🎸「二度と開店しないで」
猫たちのしっぽがゆれた。
私はジト目でコードを鳴らした。
今日の部屋には、質屋の看板と、返ってきたピックと、やけに満足そうな猫たちがいた。


